■英一郎と刹那が出会った時のお話。
―――英一郎に出会ったのは、中学3年の時だった。
……あー、腹減った……。
一昨日万引きに失敗してから何も食べていない。
危うく店主に捕まりそうになって何とか逃げ出したが、お目当てのパンは手放してしまった。
…もう1週間家に帰っていない。
食い物は盗んだり食い逃げしたりして何とか食ってきたが、風呂には入れていないからいい加減体を洗いたい。
―――俺は家の玄関を静かに開ける。
今は夜中の1時。家の中は電気が消えていて静まりかえっていた。
お袋や梓はともかく、親父に見つかるとまた理由もなく殴られるかもしれねえからな…。
俺はそろそろと物音を立てずに台所に入る。
風呂に入る前に何か食い物を…。腹が減って死にそうだ。
炊飯器を覗いてみたが米は無い。冷蔵庫を開けるとビールの瓶や缶ばかりが並んでいた。
奥の方に手を伸ばすと枝豆やイカの塩辛等、酒のつまみばかりが出てきた。
―――お、ハムがある。
俺はベリベリと包装を剥がし手掴みでハムを頬張る。
薄いハムが数枚しか入っていないが多少は腹の足しになる。
2日ぶりに食べ物を口にしてホッと一息をついた、その瞬間。
「―――おい、何してんだ、刹那。」
―――親父だ。
マズイ……。
親父は俺が握っていたハムの包装袋を見ると、とたんに表情が歪んでいった。
「テメエ!俺に断りもなく盗み食いたぁいい度胸だなあ!?」
バキッ、と、親父が思い切り俺の頬を殴る。
「ぐはッ!」
俺は無様にもテーブルに衝突し、上に乗っていたグラスが床に落ち派手に音を立てて割れた。
「この家のもんは全部俺のもんなんだよ!勝手に盗んでんじゃねえよこのガキ!!」
「ぅぐッ、ぐぁッ!!」
親父は俺を押さえつけて何度も何度も顔面を殴ってくる。
その時、台所の扉が勢いよく開かれた。
「お父さんやめて!!刹那が…!刹那が死んじゃう!!」
梓が必死に親父の腕を掴んで押さえようとする。
「クソッ、離せ梓!お前もまた殴られてえのか!!」
親父の意識が梓に向いた瞬間、俺は親父のみぞおちを思い切り蹴り飛ばした。
「ぐ…!」
親父はその場にうずくまった。
「死ね!クソ親父!!」
俺は親父にそれだけ言うと、急いで家を出た。
家を出てしばらく走り、街灯の下に辿り着く。
―――これだから家は嫌なんだよ。
結局風呂にも入れなかった…。
そう考えていると、後ろから駆け足で誰かが近付いてきた。
「刹那…!大丈夫…!?」
梓が息を切らしながら俺を追いかけてきたようだ。
「刹那…これ、使って…。顔、酷いことになってるよ…。」
そう言って白いハンカチを俺に差し出す梓。
「いらねえよ、んなもん。」
俺は制服の袖で口や鼻から出た血を乱暴に拭った。
梓の姿を改めて見ると、以前見た時よりも顔や体の傷が増えているようだった。
「…刹那…。お父さんに、あんなことしたら…駄目だよ…。」
「ぁあ?」
「あんなことしたら…余計お父さん怒るよ…。」
「じゃあ何か?殴られっぱなしでいろってか!?」
「そうじゃない…そうじゃないの…。ただ、お父さんをこれ以上怒らせないで…。」
「…テメエは怒らせねえようにしてるくせに殴られてるじゃねえか。」
「……そう、だけど……でも……。」
オドオドとし、虚ろな瞳で「お父さんを怒らせたら駄目」という梓。
―――あーあ、もうコイツは駄目だ。
完全に親父に支配されて洗脳されてやがる。
コイツにはもう何言っても無駄だ。
こんなノロマが双子の片割れだなんて今でも信じられねえ。
俺は梓に背を向けて歩き出す。
「刹那…何処に行くの…?」
「どこだっていいだろ。あんな親父がいる家にいるよりか外で寝る方が何倍もマシだ。」
「………。」
梓は泣きそうな顔で俺を見る。
『助けてほしい』と表情が物語っているのは、誰が見ても明らかだった。
だけど、俺はそんな梓を無視をする。
助かりたいなら自分から家を出ればいいんだ。俺なんかに頼るんじゃねえよ。俺は自分のことだけで精一杯なんだよ。
俺は早足で街へと歩き出した。
―――夜中の2時でも街には灯りがチラホラついていて、多少だが人も歩いていた。
―――すれ違う度、怪訝な顔で俺を見てきやがる通行人共。
チッ…ジロジロ見てんじゃねえよ、クソ野郎共が。
…ショウウィンドウに映る自分を改めて見ると、酷い有り様だった。
学生服はボロボロで、殴られた頬は腫れ上がり、鼻や口元には血が滲んでいる。
―――惨めな自分の姿が映し出され、俺は唇を噛み締める。
……クソ…ッ!
―――固く拳を握りしめた、その時。
「君、今一人なのかい?」
「あ…?」
一人の男が声をかけてきた。
…三十代~四十代程の…親父と同じ位の年齢の男だ。
キレイなグレーのスーツを身に纏い、ニコニコと微笑んでいる。
男の後ろには黒塗りの高級車が停められていた。
―――金持ちか。
「一人だけど…何の用だよ、オッサン。」
俺があからさまに嫌そうな表情で答えてやると、何故か男は余計に笑みを深くした。
「君、お金に困っているように見えるけれど……どうだい?お小遣い、欲しくはないかな?」
「………。」
援助交際か。
こんなボロボロの身なりの俺に声をかけるなんざ…ホモな上に悪趣味な野郎だな。
それともこんな格好のヤツなら安くで買えるとでも思っていやがるのか。
―――バカにしやがって……!
…なら、アイツの財布から有り金全部奪ってやる。
「ああ、小遣い欲しいな。いくらくれるんだよ?」
「そうだね…5万でどうかな?」
5万なら、そう悪くはない額か…。
いや、相手の提示金額なんかどうだっていい。隙を見て財布ごと奪いとってやる…。
「ああ、いいぜ。」
「そうか。それじゃあ早速行こう。さあ、乗って。」
俺は促されるまま男の車に乗り込んだ。
「君、その制服は近くの中学のものだね。何年生なのかな?」
「…三年。」
「ふうん…。名前は?」
「………。」
「おっと失礼、先ずは私から名乗るのが礼儀だったね。私は英一郎。君の好きに呼んでもらって構わないよ。」
……名字を名乗らないのは、裏があるからなのか。
自分の名を教えることに戸惑いはあったが、どうせ身元を知られても家にも学校にもほとんどいないのだから差し障りはないか。
「…刹那。」
「へえ、刹那くんか…。いや、なかなか君にピッタリの名前だね。」
「ソーデスカ。」
俺は関心無さそうに答える。
するとそんな俺を見てまた笑みを溢す英一郎。
…気色わりぃ。マゾヒストかよコイツ。
そんなどうでもいいような会話をしていると、車はホテルに到着した。
…安っぽいラブホテルを想像していたのだが、意外にもそこはきちんとした高級ホテルだった。
英一郎は慣れた足取りで俺を37階の部屋まで連れていった。
―――部屋に入ると、英一郎が俺の肩に手を伸ばしてきた。
俺はすかさずうつむき、恥じらうような態度をとってみせる。
「あの…俺、こういうの、初めてだから…先にシャワーを……」
「ああ、それは気が利かなくて悪かったね。どうぞ、ゆっくり身体を洗ってきなさい。」
「いえ、英一郎さんが先にシャワー浴びてきてください。」
俺は笑顔で答える。
すると英一郎は微笑み、「そうか、じゃあ先に行ってくるよ」と言い、バスルームに入っていった。
―――今のうちだ…!!
俺は急いで英一郎の鞄を漁る。
あんなオッサンとセックスするつもりなんか毛頭無い。
さっさと金だけ奪って逃げてやるさ。
鞄の中をごそごそと探っていると、革の財布を見つけた。
中を見ると、万札が数十枚入っていた。
ラッキー…!
これで当分困らねえぞ…!
俺は財布の中の札を乱暴に掴んで財布を投げ捨て、振り返り逃げ出そうとした瞬間。
「―――おやおや、コソドロのような真似をするんだね、君は。」
「――――!!」
英一郎が、俺を背後から抱き締める。
「な……ッ!?」
英一郎は俺を抱え、乱暴にベッドに投げ落とした。
「―――ッ!」
慌てて起き上がろうとするが、それよりも速く英一郎が俺の上へと覆い被さってきた。
両手首を捕まれ足は英一郎の体重で押さえつけられ、身動きが取れない。
「―――この変態野郎!!離しやがれ!!」
力を入れて抵抗するが、英一郎はびくともしない。
俺も空腹のせいで抵抗する力も次第に衰えてくる。
「抵抗は終わりかな?じゃあ遠慮なくさせてもらうよ。」
英一郎が制服を掴んで乱暴に学ランとシャツを剥いでいく。
―――クソ…ッ!
英一郎は俺に顔を近付け、キスをしてくる。
唇が触れたかと思うと強引に舌を入れてきやがった。
気色悪ぃんだよ…!
ガリッ
俺は英一郎の舌を思い切り噛んでやった。
「―――ッッ!!」
慌てて上半身を起こし口許を押さえ、眉間にシワをよせる英一郎。
口から少しだけ血が滲んでいるのが見えた。
「ハッ、ザマーミロ!変態ジジイ!!」
大人しくやられると思ったら大間違いだ。
俺は英一郎を思い切り突き飛ばしてドアへと駆け出した。
…この数十万がありゃ色々買える…!
そう思ってドアを開けると、そこにはサングラスをかけた体格の良い黒スーツの野郎が立っていた。
あ、と思った、次の瞬間―――。
「ぐぁッ!!」
その男に腹を思い切り殴られ、俺はそのまま意識を失った―――…。
「―――……は?」
「おや、目が覚めたかい?」
目が覚めると俺は湯槽に浸かっていた。
後ろから英一郎が俺を抱きしめている。
―――何なんだこの状況は。
「随分と汚れていたからね、気絶している内に身体を洗わせてもらったよ。服は破れていたから捨てて今部下に新しい物を用意させている。新しい制服が出来るまでの着替えもあるから安心したまえ。」
「……。」
俺は自分の身体を見る。
綺麗に洗われていて、痛みも違和感もない。
気絶している間にヤられちまったのかと思ったがそうでもないようだ。
「さっきは手荒な真似をしてしまってすまない。痛みが残らないように殴ったと言っていたが大丈夫かい?」
そういえば腹を殴られたんだった。
勢いよく殴られた割りには痛みは残っていないようだ。
「…っつーかいつまでくっついてやがんだ、離れろ。」
俺は英一郎の手を振りほどきサッサと風呂から上がる。
「おやおや、つれないね。」
脱衣場で用意されていた服に着替え、部屋に戻る。
部屋のテーブルには食事が用意されていた。
遅れてバスルームから出てきた英一郎が椅子に腰掛け、手招きをする。
「おいで。お腹が減っているだろう?先に食事にしようか。」
俺は促され椅子に腰を掛ける。
「―――何考えてんだ、テメエ…。」
「何って?私は君との時間を5万円で買ったんだ。お金を払う分は有意義に過ごさないとね。」
「お前が買うのは俺の時間じゃなくて身体だろ。ヤるならサッサとヤれよ。」
そう言いつつ、俺は目の前にある食事にかぶりついた。
とにかく腹が減ってちゃ逃げるにも逃げられねえからな。
「まあ最終的にはそうだけどね。セックスは一番最後にとっておきたいんだ。それまで君と楽しく過ごしていたいんだよ。」
「気色悪ぃオッサンだな。」
ニコニコと俺を見つめる英一郎を余所に、俺はパンをかじる。
「―――フフッ…」
「?」
英一郎は俺を見ながら突然ふきだした。
「何がおかしいんだよテメエ。」
「いやいや、…君が、昔飼っていた猫にソックリだから、つい…。」
「猫だと?」
「ああ。私が学生の頃、家の庭に一匹のボロボロの猫が迷いこんできたんだよ。私はその猫を捕まえて綺麗に洗って傷の手当てをしてご飯を食べさせてやったのに一向になついてくれなくてね。私のことを常に睨んできて、触ろうと手を伸ばすと引っ掻いてくるから私の手には生傷が絶えなかった。ご飯を食べたらフラリと姿を消して、1週間程経ったらまたボロボロの姿になってご飯を食べに来る…その繰り返しだったよ。」
「それ飼ってるって言わねえだろ。」
「いやいや、きちんと名前も首輪も付けていたし、怪我や病気が酷い時はちゃんと病院にも連れていっていた。私はれっきとした飼い主だったよ。」
「そんな可愛げのねえ猫のどこが良くて飼ってたんだよ。猫が好きならペットショップに行きゃ綺麗でなついてくるヤツがいるだろ。」
「どうしてだろうねえ…私は猫好きという訳ではなかったんだが……何故かその子のことが…クロのことがとても好きだったんだ。クロに会える1週間に一度の日を、とても待ち遠しく思っていたんだよ。」
英一郎は腕を組み、少しだけ表情を曇らせた。
「……クロは車にはねられて死んでしまったから、もう会うことはできないけれど…。」
「死んだ猫と似てるとか言うんじゃねえ。不吉だろ。」
「ははは、ごめんごめん。」
英一郎が猫の話をしている間もずっと食事をし続けていた俺は、最後に少しぬるくなったコンソメスープを一気に飲み干した。
「―――さて、食事も終わったみたいだし…そろそろシようか。」
「………。」
英一郎はニッコリと微笑む。
また逃げ出しても多分扉の向こうにはさっきのヤツがいるんだろう。
……逃げられねえ、か…。
「…5万、本当に払ってくれんだろうな?」
「ああ、勿論だよ。」
「―――分かった。」
俺は英一郎に手を引かれ、ベッドへと向かった。
―――英一郎が俺をベッドへと押し倒す。
「…そういえば、刹那はこういう経験は初めてかい?」
「…んな訳ねえだろ。」
「そうか、少し残念だな。」
そう言って英一郎は俺の身体を貪り始めた。
「ぅぐ…!あ…ぐ…!」
―――痛ぇ…ッ!!
英一郎のモノが俺の中に捩じ込まれて、情けないが俺は身体の震えと流れる嫌な汗を止めることが出来ずにいた。
痛みと酷い圧迫感で吐き気がする。
「時間をかけて優しく慣らしてあげたけど、やっぱりキツイね…。…刹那、こんなんでよく初めてじゃないなんて嘘をつけたね…?まあ最初から分かっていたけど…ッ」
「…るせ…ッ!テメ、ねちっこいんだよ…!…大体、女、とは、したこと…ッ、あんだから…嘘じゃねえ…ッ!!」
「へえ…、彼女でも、いるのかな…?」
「違う…、街で知らねえ女に誘われて、ヤッた…。その後女がシャワー浴びてる内に…財布の金取って、逃げた…」
「君は誰が相手でもそうなのか…。でも酷いな。私とはセックスの前に逃げ出そうとしたじゃないか。」
「誰が男となんかセックスしてえと思うかよ…。女だって、良い女とか金積んでくれるヤツとしか、ヤらねえよ…!」
「ふふ…、でもまあ、君の初めては貰うことが出来たから良しとしようか…。―――刹那、動くよ…。」
英一郎が俺の脚を抱え直す。
「ちょ、待っ―――……ッッッ!!」
俺の静止の言葉を無視して、英一郎は強引に腰を動かし始めた。
「ぃぎ…ッ!ぐ、ぅ、あ…ッ!!」
クソッ、この野郎…!
痛みばかり与えられ、俺は英一郎の背中に思い切り爪を立てて引っ掻く。
「…ッ!」
英一郎は痛みに表情を歪める。
へっ、ザマアミロ。
「ふふふ、痛かったかい?すまないね。じゃあこれならどうかな…?」
「―――ッ!?」
英一郎が俺の内壁を擦る角度を変え、ある一点を集中的に突いてきた。
「ッあ、あ…!ぅあ…ッ!?」
そこを刺激されると、何故か甘い痺れが走り、俺は甘ったるい声を出してしまった。
「ふふ…っ、随分可愛らしい声で啼いてくれるね…?」
「く…ッ!」
余裕を含んだヤツの笑みが気に入らなくて、俺は英一郎を抱き寄せて鎖骨に噛みつく。
「ぃ…ッ!」
痛みに表情を歪ませ呻く英一郎。
そんな奴の様子を見て俺はニヤリと笑った。
「―――本当に…、君は…ッ、私の大好きだったクロに、そっくりだよ…!」
「んぐッ!?」
再び激しく腰を動かし始める英一郎。
「ふ、ぅん、ん、んぐ、ん、ん、んんん…ッ!!」
声を出すのが屈辱的で、俺は英一郎に噛みついたまま必死に与えられる快楽に耐えた。
「―――はっ、…刹那…ッ、刹那…!」
俺の名前を呼ぶ英一郎の声は、何故か悲しそうだった……。
「あ゛ー…、いてぇ…」
俺はベッドに横になったまま動けなかった。
「すまないね、あんなに無茶をさせるつもりじゃなかったんだが……君があんまりにも可愛らしいから止まらなくて。」
……まさかあの後3回もされるとは思ってなかった。
「それじゃあ、私は仕事があるからもう行くよ。ここに約束のお金と新しい制服、置いておくから。ホテル代や食事代はもう払ってあるから安心してくれ。」
サイドボードに置かれた金に手を伸ばし枚数を確認する。
…七万円。
「ああ、無茶をさせてしまったしね。あと、家までのタクシー代も含めて渡しておくよ。」
「…ああ。」
まあ多く貰える分は全然構わねえけどよ。
「じゃあ、また会おう。国分寺刹那くん。」
――――は…?
…俺、名字は教えてねえよな…?
ガバッと起き上がりドアの方を見ると、既に英一郎の姿はなかった。
…一体何者なんだよ、アイツ……。
―――その後も英一郎は度々俺の前に現れて、俺を買った。
「刹那は高校に行かないつもりかい?もし行くのなら私が入学費も授業料も払ってあげよう。そうだね、真面目に通ってたら卒業まで毎月お小遣いもあげようか。ただし、月に一度は私とこうして会ってくれることが条件だよ。」
英一郎にそう言われたから渋々高校に入学した。
最初はただ英一郎から金が貰えるから嫌々ながら通っていたが……葵と出会ってからは、少しだけ学校生活も悪くないかもと思えるようになった。
英一郎と約束をしていた日、たまたま雨が降っていて英一郎が俺を迎えに来た時、そこに偶然葵が居合わせた。
葵は英一郎を見ると驚いた顔をして、その後何度も何度も頭を下げていた。
後日、葵にそのことを聞くと、葵はきょとんとした顔で教えてくれた。
「何言ってるんだよ刹那、あの人は―――……。」
英一郎が、日本人なら大抵知っているような大企業の会社の社長なのだと、俺はその時初めて知った。